本当に良いもののためには妥協しない。
冬至を越えたあたりのまだ日の昇らぬ早朝の空気は清澄ではあるが冷たく乾いている。
酒造りにとって最適な環境は、人間にとってはまさに身を切るほどにつらい。
深夜から2時間おきに三度(みたび)櫂(かい)を入れて、冷えた宮水を加えた米、 麹をひたすらすり潰す “もと摺り”。
菊正宗の酒質を特徴づける「生もとづくり」は、この“[摺り”が肝となっている。
「若い頃はこれが、つらくてつらくて。
何度投げ出そうかと思ったことか。
」嘉宝蔵 小島杜氏は述懐する。
「でも、これだけは妥協したくない。
酒というのは素直だから、手を掛ければ掛けるほど、良い酒になるさかい。
」 丹波杜氏には、つらい[摺り作業を少しでも和ませるための「[摺り唄」がある。
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〜ヤーレ、目出度目出度の〜若松様よ〜 枝が栄えて〜葉も茂る〜♪
今日も、しんとした静寂の中、もと摺り唄の声だけが蔵内に響き渡る。
人と自然が織り成す、「手づくり」の妙味。
生もとづくりとは、蒸米・麹・宮水を丹念にすりあわせる工程([摺り)を経て、 自然の乳酸菌の力を借りながらじっくりと時間をかけ力強く優良な酵母を育む古来伝承のもとづくりです。
生[特有のキレ味とふくらみのある辛口酒が醸し出されます。
『江戸時代の昔より、冬至を越えたあたりの、年間で最も寒い季節を選んで酒造りが行なわれていた。
これを「寒造り」と呼ぶ。
気温が低く雑菌汚染の心配が少ないこと等、酒造りの条件として最適であることから、この時期醸し出される酒は良質であるとされ、江戸時代、酒価は最高であった。
酒処 灘興隆の一因は「寒造り」にあるともいわれる。
』 (灘酒研究会編「灘の酒用語集」より) 「灘の寒造り」を支えるのは、「生もとづくり」と呼ばれる昔ながらの手作り製法で、これを採用しているのは、全国千数百蔵のなかでも菊正宗を含め数蔵しかございません。
菊正宗では、2009年秋よりこの生もとづくりを冬季だけの限定酒から上撰本醸造酒へ広げることに踏み切りました。
生[づくりでしか届かない理想の辛口を目指し、さらなるチャレンジを続けます。
© わたしと、ずーっと菊正宗 日本酒